日系航空会社のCAとして、約8年間国内・国際線に乗務していました。
幸運にも、イレギュラーと呼ばれる大幅遅延、代替空港着陸、病人発生など、通常ではないフライトを経験したことはほとんどありませんでした。しかし、イレギュラーとまでは呼べませんが、忘れられないフライトがあります。
社員旅行の団体の中に、飛行機が苦手なお客様が!
まだ新人CAだった頃。乗務を始めて半年も経過していない時期です。
約3時間ほどの中国へのフライトでした。
その日は、社員旅行の団体が入っていました。離陸して、ベルト着用サインが消灯したところで、CAコールボタンがなりました。
私の担当区分だったので、すぐにお客様のもとへ。
お客様は真っ青な顔で、冷や汗をかいていました。
聞き取れないような震える小さな声で、「実は飛行機が苦手なんです…」と。
かなりの緊張具合が見て取れたので、これはまずい状況かも。と思った瞬間、お客様が私の手を握ったのです。
え?と思ったのと同時に、どうしたらいいんだろうか…と考えました。
当時まだまだ新人だったこともあり、とにかく他のCAにもこの状況を知ってもらって、どうしたらいいかアドバイスをもらうしかないと思いました。
ずっとお客様と手をつないだままで…
今度は私がCAコールボタンを押し、他のCAを呼びました。
来てくれたのは、クラスパーサーの先輩CAでした。「お客様が飛行機が怖いそうで…」と先輩CAに説明したところ、「今日はお客様が少ないので、そのままこのお客様を安心させてあげてください。この方の気が落ち着くまで。」というのです。
お客様と手をつないだまま、床に膝をついて、最悪の場合にはあと2時間半はこのままになってしまうの?私が仕事ができないから、そう言われたのだろうか…。
先輩CAがお客様にも聞こえるように言ってしまったので、私としては、このままでいるしかありません。
少しでも早く解放してくれないかな?と、正直思いました。
そして、悪い予感の通り、着陸前のベルト着用サインが点灯するまで、私はお客様と手をつないだまま、その場にいただけした。
まさか、自分にこんな仕事?がまわってくるとは思ってもみませんでした。
フライト後の先輩CAの言葉
フライト後、先輩CAは「あなたが手を握っていてくれたから、お客様がひどくパニックにならず、大きなトラブルには至りませんでした。キャビンでお客様の手を握っているだけなんてと思ったでしょうが、フライトがスムーズにいくこととお客様のことを考えて、今日はこういう判断をしました。あまり気持ちのいい仕事ではなかったと思いますが、最後までありがとう。」と言ってくださいました。
その先のCA人生がどうなるのか、ちょっと不安になりましたが、この先輩CAのような判断と思いやりの言葉は言えるようになりたいと思いました。